(集会報告②)「不穏なトランプ効果―加速化する改憲と24条の危機」 山口智美

2017年1月6日に開催した「不穏なトランプ効果―加速化する改憲と24条の危機」。報告の2回目は、山口智美さんによる講演です。

トランプ後のアメリカと日本―リプロの危機と24条

レジュメはこちら→( 山口智美レジュメ)トランプ後のアメリカと日本―リプロの危機と24条

2016年11月のアメリカ大統領選挙でトランプが勝ったことで一番影響を受けるのがマイノリティです。人種的マイノリティ、移民、イスラム教徒、さらにはLGBT、障害者など、マイノリティにとっては厳しい状況になると思います。例えば、選挙後一ヶ月の間、全米でヘイト事件が相次ぎました。また、トランプを支持した白人至上主義者らも勢いづき、各地でデモを開くなどしています。

トランプ大統領の下で危機に陥るのが、リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(以下リプロ)、特に中絶です。最高裁判事の欠員が出たら中絶反対派が指名されることになるでしょうし、副大統領のペンスはガチガチの反中絶主義者です。州レベルではすでに、妊娠中絶が可能な期間が短くなるところが増えています。またオバマ政権が尽力したことに、公教育における性差別を禁止する「タイトルIX」(教育改正法第9篇)に基づく、公教育における性暴力やハラスメント対策、また、トランスジェンダーの人たちが自らが使いたいトイレを使えるなど、性自認に基づく差別的扱いをなくす対策があります。トランプ政権になるとこれも後退することが懸念されます。

トランプ政権の動向が日本に影響してくるかどうかまだわかりませんが、影響が出てくるようだと、リプロの危機、女性やLGBTの権利の後退などが危惧されます。

では、日本に話を移しましょう。24条については、1950年代からずっと右派のターゲットになってきました。そして、1972年、1982年と、中絶をできなくしようと「優生保護法」の改悪が提起されましたが、この動きの中心になったのが「生長の家政治連合」でした。今の日本会議の中心の一つにつながる勢力であり、この人たちが2大悲願としてきたのが、優生保護法と憲法の改悪です。

さらに1979年には、時の大平内閣が「家庭基盤の充実に関する対策要綱」(いわゆる「家庭基盤充実政策」)を提起しました。「日本型福祉社会」として、介護や育児を家族にやらせようというもので、性別役割分業の強化を狙った政策でもありました。優生保護法改悪と家庭基盤充実政策は、今の状況と繋がっているといえます。

2000年代には右派からフェミニズムへのバックラッシュが起き、男女共同参画や性教育がバッシングのターゲットになりました。特に性教育へのバックラッシュは、リプロをめぐる状況をさらに悪化させました。

では、右派はなぜ24条にこだわり、改正しようするのでしょうか。彼らは現代の日本では「行き過ぎた個人主義」が「家族の崩壊」を招いており、その原因が24条であると主張します。少子化も「行き過ぎた個人主義」による未婚化のせい、選択的夫婦別姓を求めることなども全て「行き過ぎた個人主義」の結果で、家族の崩壊を招くと批判します。そのため24条を改正して「家族」の位置付けを明記すれば「行き過ぎた個人主義」に歯止めがかかるということのようです。

では、この右派が推奨する「家族」とは何なのでしょうか。右派はよく「サザエさん一家」を理想の家族として掲げますが、なぜかといえばサザエさん一家が三世代同居家族だからです。右派にとって、「家族」はすなわち、先祖から子孫に至る「縦の系譜を意識する共同体」であり、それこそが「日本の伝統」だと主張しています。そして、子育てや介護役割は家庭で行うべきだとするのです。戦前のイエ制度的な考え方に加え、先ほど言及した、大平政権時代の「家庭基盤充実政策」がモデルになっていると言えるでしょう。そして、結婚は子どもを産むことが前提だとし、「少子化対策のための結婚」を推奨するわけです。

安倍政権による一億総活躍政策も、なかなか待機児童問題などへの有効な手立てを打ち出せていない中で、三世代同居推進や婚活政策だけが前進しているような状況といえます。例えば2016年に行われた内閣府の「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」では、企業や団体内での「婚活メンター」の設置や、婚活推進企業の表彰制度などが提言に入りそうになり、女性グループや市民の反対が巻き起こり結局削除されるという顛末がありました。しかしながら、すでに「婚活メンター」や表彰制度を実施している自治体もあります。また、検討会ではライフプラン教育を推進するという提言もされましたが、自治体などがライフプラン講座を開催したり、冊子を作ったりなどもすでに行われています。この中で、妊娠や出産、子育てが必ず付随するライフプランが規範的なものとされていたり「卵子の老化」などの「知識」が教えられたりしています。このようなライフプランをめぐる事業が今後どう展開するか気をつける必要があると思います。

「家庭教育支援法案」が近く国会で提出されるという話が出ています。家庭教育をめぐる動きは、2006年、第一次安倍政権のもとでの教育基本法の改悪以降、活発になりました。改正教育基本法に、「家庭教育」の項目が導入され、国や自治体での家庭教育支援の動きが本格化したのです。特に自治体では、「親学」「親の学び」「親の学習」など様々な名称のもとで、家庭教育施策が進められていきました。

2012年からは、自治体での家庭教育支援条例づくりの動きが広がり始めました。最初に条例を通したのが2012年12月の熊本県で、熊本の条例がモデルとなり、県や市でも条例を通すところが出てきています。(「家庭教育支援条例が制定されている自治体の一覧」を参照 http://d.hatena.ne.jp/yamtom/20170329

2016年10月段階での自民党の「家庭教育支援法案」の素案(https://goo.gl/VWAvXf)では、家族を「社会の基礎的な集団である家族」と定義しており、これは自民党改憲案24条「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。」と同様の文言です。また、家庭教育の理念を「子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるように」と規定していました。その後別の素案が提示され、これらの条文はなくなったようですが、2016年10月素案から自民党の本音が透けて見えます。すなわち、個人ではなく家族を社会の基礎単位とし、かつ「家庭」は国家のための人材づくりの場とする、ということです。この法案により公の家庭への介入も正当化されるでしょうし、24条が定める、個人の尊厳と両性の平等も骨抜きにされるのではないでしょうか。

家庭教育支援法案は、24条改悪への布石なのではないかとも考えられます。個人の尊厳や両性の平等は、こうした立法や政策により骨抜きになり、より明文改憲しやすい状況が作られるとも言えます。

こうした日本での動きにどうトランプ政権の方向性が影響してくるのか、現段階ではまだわかりません。でも、アメリカでも日本でもリプロは危機的状況にあることは確かです。

 

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