(毎日新聞)論点 シリーズ憲法70年 家族と国を考える

5月5日の毎日新聞は「シリーズ憲法70年」で、自民党が法案提出を狙っている「家庭教育支援法案」と憲法24条について大特集しています。キャンペーン呼びかけ人の中里見博さんのコメントも。読み応えのある記事です、ぜひお読みください!

https://mainichi.jp/articles/20170505/ddm/004/070/003000c

論点 シリーズ憲法70年 家族と国を考える

 施行70年の日本国憲法。改憲に前のめりな安倍政権のもとで注目されているのが「憲法と家族の関係」だ。憲法24条は家庭生活における個の尊厳をうたうが、自民党が今国会への提出を目指す家庭教育支援法案は「国や自治体が家庭教育支援に責任を負う」としており、家庭への公権力の介入を懸念する声も出ている。

親の「学び」応援する法律を 上野通子・自民党家庭教育支援法案プロジェクトチーム事務局長(参院議員)

 自民党が国会提出を目指している家庭教育支援法案は、2006年に改正された教育基本法を受けて、国や地方自治体が家庭教育を支援するためにまとめたものだ。法案を巡り「あるべき家庭や家族像を定義づける狙い」「憲法24条改正の足がかりとなる」という批判があるが、全くの誤解だ。党内議論で「家庭への介入につながるのでは」との懸念の声が上がったため、当初案にあった「社会の基礎的な集団である家族」「子に国家及び社会の形成者として必要な資質が備わるようにする」などの表現は削除した。法案にある「教育基本法の精神にのっとる」との文言に、その趣旨が含まれているからだ。

 かつては祖父母や親戚を含む大家族や地域社会の中で子育てができたが、今はひとり親家庭の増加、子どもの貧困、児童虐待が社会問題となり、物事の善悪を判断して子どもに教えることができない親が増えている。

 党の食育調査会で貧困状態の子どもに地域で食事を提供する「子ども食堂」を視察した際、「いただきます」とあいさつできなかったり、箸を持てなかったりする子どもがいて、危機感を持った。道徳やモラルを学校教育に取り入れる必要があると考え、道徳の教科化にも取り組んできたが、親や保護者から学ぶべき最低限の生活習慣まで学校で教えることには違和感がある。

 改正教育基本法は「保護者は子の教育に第一義的責任を有する」と定めた10条を新設し、「家庭教育」を明記した。法改正を受け、12年の熊本県を皮切りに11県市で家庭教育支援条例が制定され、保護者が親の役割を学んだり、中高生が「親になる準備」として子育ての意義を考えたりする講座などが実施されている。「国の対策や根拠法が必要だ」という要請も強く、14年から党青少年健全育成推進調査会のプロジェクトチームで法案の内容を検討してきた。

 子育て支援と家庭教育支援は車の両輪だ。子育て支援は、虐待やいじめから子どもを守る施策など、子どもに対する支援が中心だ。一方、家庭教育支援は、子どもにしつけなどの教育を施す親や保護者を支援するものだ。子どもが抱える問題は、子育てができず虐待してしまう▽いじめに気付かない▽不登校の子どもに向き合えない--という「親としての学びと知識の欠如」と表裏一体だからだ。

 今後重視したいのは、自分からSOSを発信できず、孤立している親への支援だ。児童虐待問題では児童相談所や警察が家庭に踏み込めない問題が指摘されているが、訪問型の家庭教育支援によって虐待を発見し、加害者となった親の「学び」を支援することで問題を解決することが期待される。

 貧困による教育格差を心配する保護者に対しては、家庭学習のやり方に関する情報提供などの支援が必要だ。図書館を活用した読書・学習機会の提供や、高校中退者の進学・就労支援と合わせて、保護者の教育力向上につなげたい。

 家庭教育は全ての教育の出発点だ。社会全体で全ての親の「学び」を応援する態勢作りを進めたい。【聞き手・中川聡子】

「教育支援」という名の権力介入 中里見博・大阪電気通信大教授

 家庭教育支援法案は憲法24条の趣旨に反する。背景を読み解くには(1)24条の成り立ちや条文をめぐる政治的議論(2)自民党の家族政策についての方針---という2点の文脈を理解する必要がある。

 24条はどのようにできたか。戦前の「家」は、天皇主権の軍国主義体制を社会の隅々まで行き渡らせるための公の装置だった。家長が家族の他の構成員を支配する圧倒的に男性優位の仕組みで、女性は参政権がなく、結婚すると財産管理権も失った。新しい家族像を示したのが、連合国軍総司令部(GHQ)職員のベアテ・シロタ・ゴードンさんが起草した24条だ。日本の家族の中では女性と子どもが不幸を背負っていると観察した彼女は「個人の尊厳」「両性の本質的平等」を規定し、家制度を完全に否定した。

 24条は成立過程から保守勢力の強い抵抗に遭い、1950年代から改憲の標的にされてきた。背景にあるのは「個人主義の行き過ぎで、女性や子どもが利己的になった」との発想だ。児童虐待や社会保障費の増大などさまざまな社会的困難は「家族の崩壊」のせいである。ひいては、親を敬って老後まで世話する「孝」の精神や、国や社会への「公共心」を鍛え直したい。こうした視点が、自民党の改憲草案や2006年に成立した改正教育基本法に結実している。

 改正基本法は家庭教育の項目を新設し、教育目標に「公共の精神」「国と郷土を愛する態度」を盛り込んだ。今回の家庭教育支援法案はこの流れをくんでおり、素案では家族を「社会の基礎的な集団」と位置づけ、「国家及び社会の形成者として必要な資質」を子に備える、という基本理念を明記していた。削除されこそしたが、家庭を通して公共心を子どもに注ぎ込みたい、国益のために働く子を育てたいとの狙いは明らかだ。

 24条の趣旨を起草者の思考にさかのぼって考えたい。実はベアテさんの草案も家族を「社会の基礎」と位置づけ、「法による保護」をうたっていた。だが、これは家族内の弱者である子どもや高齢者、女性への支援を国から引き出すために盛り込まれた文言だった。自民党改憲草案の「家族の助け合い」とは、むしろ逆の思想といえる。

 結局、ベアテさんの草案にあった家族保護の文言が憲法に盛り込まれなかったのは、条文が表面的に解釈、利用され、国による「国家に奉仕する家族をつくるための介入」を招きかねないと危惧されたからだとされている。それほど、憲法には戦前に回帰できない装置が埋め込まれている。24条の趣旨は、国が家庭教育のあり方を指南したり、方向付けたりすることを排除している。国による家族への介入が許されるのは弱者保護と平等支援だけだ。

 児童虐待やドメスティックバイオレンス(DV)の被害者の支援、子どもの貧困対策、男性を家庭から遠ざけてきた長時間労働の是正--。本来、24条のうたう個人の尊厳や両性平等が息づく家族を支えるために優先すべきなのはこうした施策のはずだ。「家庭教育支援」という聞こえのよさに惑わされてはならない。【聞き手・反橋希美】

社会保障、肩代わりさせるな 樋口恵子・東京家政大女性未来研究所長

 憲法改正を訴える日本会議の関連団体が啓発DVDで「サザエさん一家」を理想と持ち上げたと聞いて思い出した。以前に講演で「私は『サザエさん』のファンで……」と語ると、講演の後に聴衆の男性から「ご同慶の至りだ」と話しかけられたものだった。

 「一家7人が同居してちゃぶ台を囲むところが、昔ながらでいいですなあ」。だが、実は「サザエさん」は昔ながらの伝統や常識とは最も遠い「女系家族」だ。そのことが見落とされている。

 「サザエさん」の面白さは、サザエが昔ながらの「嫁ではない」ことで成り立っている。サザエは姓こそ変えたが、この家の娘である。約30年の連載で夫のマスオの実家が漫画に登場したのはわずか4回。アニメの主題歌にも歌われる「陽気なサザエさん」のキャラクターは、当時の「嫁」ではあり得なかった。

 男性像も新しい。漫画が人気絶頂の頃、こんな意見が新聞に載った。「『サザエさん』の男たちは覇気がない」。これはある意味正しい。あれは「二度と戦争をしない」と決めた男の顔だ。

 理想の男性はカツオである。男の子に家事をほとんど期待していなかった当時の日本社会で、彼のお手伝いのレパートリーは実に広い。地域社会にも溶け込んでおり、彼は将来年老いても、粗大ゴミだの、ぬれ落ち葉だのと言われずに生きていけるだろう。波平やマスオも会社人間ではない。大掃除で「男たちにまかしとけ!」と張り切るなど、家庭生活を大切にする場面も少なくない。

 原作者の長谷川町子は、こうした家族が「標準」から外れていることを自覚していたはずだ。新憲法に基づいた家族像を作り上げつつ、家族がちゃぶ台を囲む「絵」によって、磯野家を「男中心の3世代家族」のように感じさせ、保守主義者までもファンにした。

 ただし「サザエさん」も描けなかったのが高齢者問題だ。最年長の波平が50代。「人生50年時代」の家族像を出ていない。町子も戦後ここまで少子高齢化が進み、平均寿命が延び「人生100年時代」が来るとは思わなかったのだろう。

 人生100年時代とは他者によるケアを必要とする時間が相対的に長くなる時代だ。一方で高齢夫婦のみの世帯や単身世帯が増え、家族内でのケアは限界にきている。家族のサイズやかたちが変わった現代、憲法で「家族を大切に」とうたえと言うのは時代錯誤も甚だしい。

 「家族を大切に」という主張の背景には、家族に社会保障の肩代わりをさせる意図がある。だが人生100年時代は、ケアをする個人を社会が支えなければ、今ある家族の崩壊を招き、国家社会の衰退につながりかねない。子供や嫁が仕事を辞めて親を介護するのではなく、仕事を辞めずに介護できるよう、社会の制度を設計する。現代の「家族を大切にする」とはそういうことだ。

 現行憲法を変える必要はない。基本的人権をしっかり守れば良い。どうしても変えるというなら、家族も含む「多様性を基本的人権として守る」ということを、しっかりとうたってほしい。【聞き手・尾中香尚里】

「家庭の助け合い」強調

 憲法24条は「(家族に関する法律は)個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」として、家庭内における「個の尊厳」をうたっている。自民党は2012年に公表した憲法改正草案で24条の冒頭に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」との条文を加え、「家庭内の助け合い」の必要性を強調。家庭教育支援法案も同様の発想から生まれたと言える。

■人物略歴

うえの・みちこ
1958年宇都宮市生まれ。共立女子大卒。高校の国語教諭を経て、2003年栃木県議選に当選し2期務める。10年の参院選栃木選挙区で当選し、現在2期目。自民党女性局長、文部科学政務官などを歴任。

なかさとみ・ひろし
1966年福岡市生まれ。名古屋大卒。福島大准教授などを経て現職。専門は憲法。著書に「憲法24条+9条 なぜ男女平等がねらわれるのか」(かもがわブックレット)。

ひぐち・けいこ
1932年東京都生まれ。東京大卒。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長。「サザエさんからいじわるばあさんへ--女・子どもの生活史」「人生100年時代への船出」など著書多数。

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