(毎日新聞)特集ワイド「家庭教育支援法」成立目指す自民 「伝統的家族」なる幻想 家族の絆弱まり、家庭の教育力低下――!?

毎日新聞が「家庭教育支援法案」の特集記事を掲載しています。安倍首相やその取り巻きが固執する「伝統的家族」のウソをあばく記事です。ぜひお読みください。

特集ワイド「家庭教育支援法」成立目指す自民 「伝統的家族」なる幻想 家族の絆弱まり、家庭の教育力低下--!?

http://mainichi.jp/articles/20170301/dde/012/010/003000c

毎日新聞2017年3月1日 東京夕刊

戦後日本は「伝統的家族」が壊れ、家族の絆が弱まって家庭の教育力が低下した--。こんな嘆きを耳にしたことはないだろうか。特に安倍晋三首相の憂いは深いらしく、自民党が今国会に家庭教育支援法案を出すらしい。その是非の前に問いたい。「伝統的家族」はホンモノか? 【吉井理記】

 昔の子育ては「放任」が一般的 3世代以上同居は大正時代でも3割

 突然だが、クイズである。

 A「核家族化で家庭、家族の教育力が低下してきた」

 B「家庭の機能が衰弱傾向にある。家庭の機能、特に教育機能をよく両親に考えていただく」

 C「(非行問題の背景に)核家族化や離婚による家庭の教育力の低下が指摘できる」

 D「家庭の教育力の低下が言われている。どのように道徳やモラルを学ばせれば良いかという問題がある」

 いずれも国会での発言だが、どのような時代順なのか。

 一番古いのはB。1964年の参院予算委員会での文部省社会教育局長の答弁だ。Cは83年の参院文教委での自民党の山東昭子氏の発言。Aは2007年の参院文教科学委で安倍首相がこう答弁した。Dは14年の衆院青少年問題特別委で同党の上野通子氏が発言した。つまり自民党や政府からすれば、この50年間で「家庭の教育力」は低下する一方、との認識らしい。

 「何を根拠に言っているのか。教育や家庭を巡る議論はうそだらけです」とあきれるのが、日本教育学会会長で日大教授の広田照幸さんだ。

 その「教育力低下」論に沿って自民党が成立を目指す家庭教育支援法。現時点で法案は全15条。家庭教育は、父母・保護者の責任で子供に生活に必要な習慣を身につけさせ、自立心の育成に努める▽学校や保育所、住民は、国や自治体の家庭教育支援策に協力するよう努める--などと定めている。

 広田さんは「誤った事実認識による政策こそ、教育をゆがめるのですが……」と苦り切る。

 「誤った認識」とは何か。広田さんは「そもそも『日本の家庭は伝統的に子供への教育がしっかりしていた』という言説自体がうそです。昔の日本の子育ては『放任』が一般的でした」と解説する。

 戦前・戦後の膨大な資料を分析した著書「日本人のしつけは衰退したか」に詳しいが、日本では1910年ごろにしつけや教育のノウハウを書いた育児本が登場し、富裕層や役人・知識人ら新中間層が家庭教育に注力し始めた。一方、農漁村や都市の庶民は、戦後まで教育に力を入れるゆとりはなかった。

 実際、明治後期から昭和初期の漁村で幼少期を過ごした古老への聞き取り(92年、大阪商大の佐野茂教授の論文)では、「学校は厳しかったが、家庭でしつけをされた記憶はない」との趣旨の回答が多かった。

 家庭が子供の教育に力を入れるようになったのは、都市化が進み、地域の影響力が低下した高度成長期以降だという。「それなのに政治家たちは『教育力が下がった』と語るのはなぜか。彼らは昔から家庭教育を意識できた豊かな家の生まれが多い。幼少期の記憶を不当に広げ『昔はどこもそうだった』と思い込んでいるのでは」

 また、車の両輪のように語られる「家族の絆が弱まった」論も根拠が怪しそうだ。安倍首相は2013年の著書「新しい国へ」で「家族が崩壊しつつある、といわれて久しい。(中略)今の時代に忘れられがちな家族の情愛や……」と記しているのだが。

 広田さんが苦笑いする。「もちろんうそです。データを見れば分かるのに、なぜ無視するのでしょうか」

 文部科学省所管の統計数理研究所が実施する「日本人の国民性調査」を見てみよう。58年には「一番大切なもの」に「家族」を挙げる人は12%だったが、2013年は44%に。内閣府の調査でも、父親との会話の頻度を子供に聞くと「話すほう」と答えたのは70年の45.6%から00年には64.9%に増えた。母親でも同じ傾向だ。

 「今ほど『家族の絆』が強い時代はないんです。むしろ強過ぎる絆が時に家族関係を窮屈にするほど。家庭教育支援法? 多様性の時代に、国が最も私的な部分である家庭に枠をはめることに何の意味があるのか。支援でなく『介入』です」

 では、安倍首相らが目指す家族像とはどのようなものか? 気になる発言があった。第1次政権時の07年5月17日、衆院教育再生特別委での答弁だ。「かつては大家族、2世代、3世代同居という家族がたくさんあった。その中で親から子に受け継がれた知恵や工夫、地域の規律やモラル、そういうものが家族や地域の中で、教育に対する支援がなされたと言っていい」

 憲法改正を訴える保守団体「日本会議」の関連団体が製作した啓発DVDでも、人気アニメ「サザエさん」に触れながら「3世代の大家族は昔は日本のどこでも見られた」と強調している。「昔の家=3世代同居」論は本当なのか。

 国会図書館で調べると、1937年の古書「家族構成」に行き着いた。家族社会学者の草分け、戸田貞三氏が大正期の第1回国勢調査(20年)を分析した労作だ。この時代、核家族は既に54%(2015年は57.4%)に上り、3世代以上の同居家族などは31%(同10.1%)に過ぎない。

 「世界的に見れば高い数字ですが、大正期ですら3割しかない。そもそも日本で3世代同居が増えるのは幕末以降。むしろ地方によっては複数夫婦の同居はタブーでした」と話すのは、日本やアジアの家族事情に詳しい京都大の落合恵美子教授だ。安倍首相や日本会議の唱える家族像は「日本の伝統を誤解している」と強調するのだ。

 「日本本来の家族の形は緩やかで多様でした。例えば明治中期の離婚率は現在より高いし、同時に再婚も多かった。『専業主婦は日本の伝統』と勘違いする人もいますが、70年ごろまで日本女性の就労率は欧米諸国よりも高く、専業主婦が一般化するのは高度成長期なんです。明治民法の施行(1898年)や近代化の過程で多様性が消され、儒教的で権威的な、中国のような家族像と西洋的な性別分業が強調されたのです」

 そういえば中国では法律で「子供による老親の扶養」が義務化されているが、自民党の改憲草案も「家族の相互扶助」を義務づけようとしている。

 「日本とは逆に、家族に頼らなくとも生きていける制度を作った北欧では、婚姻率や出生率が上昇に転じつつある。世界では『家族主義は家族を壊す』が定説です。家族の相互依存を必然とする制度を作ると、家族が互いの負担になり、家族は壊れる。柔軟性こそが日本家族の伝統なんです。これ以上『伝統の捏造(ねつぞう)』をしないでほしい」と落合さんは憂えるのだ。

 「保守」を唱える人たちこそ、心して耳を傾けねばならない指摘だろう。

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