9.2キックオフシンポジウムの報告(後半)

木村さんの講演、北原さんとの対談ののち、能川元一さんと呼びかけ人の清末愛砂さんから10分ずつ話していただきました。

能川さんは、改憲勢力/右派の動向や彼らの世界観について話しました。最近、新聞や雑誌でも取り上げられ、数々の著作もでている「日本会議」ですが、ここが組織している「美しい日本の憲法をつくる国民の会」があり、PR用のDVDを1000円で配っています。このリーフレットを見ると、彼らの改憲目標のうち優先度が高いのは、前文(伝統文化)、天皇の国家元首化、九条、環境権、24条(家族保護規定)、緊急事態条項、96条(改憲へのハードル)、となっているということ。現時点で最も改憲の可能性が高いのは、人々の抵抗感が薄く、民進党など野党の協力を得られそうな「緊急事態条項の創設」で、実際、右派論壇誌や機関紙をみても、もっとも取り上げられているのは緊急事態条項だということです。
では、24条は大丈夫なのかというと、能川さんは「要注意」と言います。彼らも、改憲の第一歩として絶対に失敗ができないので非常にナーバスになっており、ジャンケンで何を出すかという読みあいのような状態でもあるということ。ムリだと思うと土壇場で変えてくる可能性があり、事態は流動的だと指摘しました。
第二次安倍政権が誕生して以降、『正論』は「歴史戦」として歴史や戦争にかんする特集に力をいれてきていますが、そうした中でも家族をテーマに3回も特集を組んでいるそうです。その背景には家族にかんする最高裁判決があり、「彼らにとって、婚外子の相続差別規定が違憲とされたことは非常に大きな衝撃でした。夫婦別姓にかんしては一安心したようですが、油断はしていません。最高裁判決の意見の中で『時代の変化うんぬん』という表現があったこともあり、ねじを巻き直しているところです」と能川さんは指摘しました。
そして、先に紹介した7つの論点について「彼らの基本的な世界観は、敗戦で押し付けられた戦後改革は不本意だというイデオロギーに根差している」と話し、それがもっとも分かるものとして、最近、産経新聞が「人口戦」と言い出していることを紹介しました。「これは要するに少子化と闘うということなんですが、少子化はGHQの仕組んだ罠だと言っているんです。GHQが押し付けた改革によって家族が解体されたんだというのが、彼らの基本的な世界観なのです」と話し、失笑が起きた会場に向かって、「これをバカにしているだけでは済まなくて、『家族の絆が大事』という主張は広くアピールする要素を持っているので、彼らの世界観を踏まえた上で、(改憲を止めようとする側が)リソースを奪い合うのではなく、協力しながら闘っていくことが必要だと思います」と訴えました。

続いて、「憲法24条を変えさせたくない!」と強い気持ちで呼びかけ人になったという清末愛砂さんが、24条の意義と、家族主義と新自由主義の結びつきについて話しました。
24条の1つ目の大きな意義は、天皇が主権であった大日本帝国の土台を構築するために導入された家制度の廃止をもたらした重要な根拠条文であること、さらに、個人の尊重を謳う13条、法の下の平等を定めた14条とともに、帝国主義と植民地主義に基づくジェンダー差別の仕組み(家制度)、とりわけ、差別や暴力の温床となってきた<家族>という「私的領域」における差別そのものを明確に否定したという意味があるのだと指摘しました。
そしてもう1つ、大日本帝国時代の戦時体制や監視体制と密接なかかわりを持っていた家制度を否定したということは、同時に、戦争や戦時体制も明確にしたという意味があるとして、「24条は、平和主義を実現するための条文の一つ。憲法前文・9条と24条は一連のものとしてとらえることが重要です」と話しました。そして、日本国憲法の非暴力性を確かなものにしていくために、前文、9条、13条、14条、24条、25条の一体化論というものが必要であり、これを強く主張していくことが変革へのカギとなるのでは、と提起しました。
また、改憲勢力が24条を改悪して個人の尊重や尊厳を否定しつつ<家族の助け合い>を入れようとしているのは、強固な戦時国家をつくるうえで欠かせない要素だからだと指摘。強権的な国家を作り上げるために必要なほかの要素も着々と準備されてきている状況で、すべて連動していると話しました。
最後に、新自由主義に基づく経済政策(「アベノミクス」)と家族の助け合いという<家族主義>は、「政府が介入を止める」というキーワードでつながっているとし、政府が担うべき社会保障などの公的サービスを家族に肩代わりさせて福祉を切り捨てる手段として<家族主義>がもうすでに用いられてきており、これがさらに加速されると、家族で育児や介護を抱えざるを得ないけれども、その継続は難しく、劣悪な雇用条件や労働環境の民間の介護ビジネスに頼らざるを得なくなる、すると介護ビジネスは利益を手にすることができる、という風につながっていると説明しました。そして、「24条改悪を黙って見過ごせば、そのツケを私たち自ら払うことになります。一人ひとりの生き方と尊厳を守るためになんとしても阻止しましょう」と話を終えました。

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呼びかけ人の打越さく良弁護士

その後、各分野のみなさんから、日々取り組んでいる課題と24条との関連について話していただきました。
赤石千衣子さん(NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長)は、社会保障の分野で進行している家族・親族頼みの現状について話しました。また、昨年はひとり親家庭の子どものため児童扶養手当の増額を実現したものの、「こんなにかわいそうなんですよ、と訴えないと社会保障の充実ができないこと自体おかしい」と批判しました。今起きている1つ1つの事柄について、社会保障がどんどん切り崩されているという全体状況の中で理解してほしいと訴え、明文改憲がされてしまうとさらにひどいことになると危惧を表しました。

DV被害者や虐待をうけた子どもの弁護を担当することが多く、このキャンペーンの呼びかけ人でもある打越さく良さん(弁護士)は、「家族の崩壊は24条のせいではない。むしろ、ひとり一人が平等であること、尊厳をもった存在だということがまだ根付いていない、24条が徹底されなきゃいけない」と訴え、国が、家族の多様性や個人がいきいきと生活することを尊重し、支えなくてどうするんだ、と、自民党草案を批判しました。そして、「のみ」を外そうとしていることについて、選択的夫婦別姓制度を阻止したいという意図も感じられると危機感を強めました。また、自身が弁護団事務局長として関わった夫婦別姓訴訟への木村さんの批判に対しては、「私たちは、法律論的にはこれがさくっとスマートにいける、というのではなく、苦しんできた女性をスタートにしてきました。今後、木村さんのご協力もいただきながら、24条を守り、選択的夫婦別姓を実現させる闘いを続けていきたい」と力強くアピールしました。

大橋由香子さん(SOSHIREN女(わたし)のからだから)は、「CHOICE(選択)」と書かれたTシャツで登壇し、「生む生まないは女が決める、ということについて活動してきました」と自己紹介しました。大橋さんは、現在の少子化対策について「平成版産めよ増やせよ」と言うにはためらいがあったが、安倍政権が進める政策については「かなりひどい、時代錯誤な動きが進んでいる」と切り出しました。そもそも、1907年にできた刑法堕胎罪がまだあり、女性だけで妊娠は不可能なのに女性だけが刑罰の対象であること、48年にできた優生保護法によって合法的に中絶を受けることができるが、この法律の目的は「不良な子孫の出生を防止する」ものであることを説明し、敗戦後、民主主義と男女平等がうたわれた中でとりわけ女性や障害を持った女性たちのリプロダクティブ・ライツ/ヘルスが踏みにじられてきた歴史について話しました。そして、現行憲法下においても、「生む生まない」について当事者が決めるということが実現しておらず、生殖技術が進む中、より一層あやうくなると強調しました。

法律学が専門で、DV防止法制定に尽力したことで知られる戒能民江さん(お茶の水女子大学名誉教授)は、木村さんの資料の、24条GHQ草案の「婚姻の維持は“male domination(男性優位)”ではなく相互の協力で」という文に注目。「男性優位でなく」という(消えてしまった)ひと言が24条の核心にはあった、と指摘しました。結果として今も残る男性優位意識は、女性に対するさまざまな暴力の根底にあるとし、以前からDV防止法を敵視する運動があることにも触れました。最近では「親子断絶防止法」という法案まであると紹介。これは、日本が単独親権であるため、離婚したのち子どもに会えない親(主に父親)の民間団体などが議連と一緒に運動を展開しているものですが、戒能さんは「DV防止法の無化につながりかねない」と話しました。近く国会に上程される可能性のあるこの法案は注意が必要で、24条改悪との結びつきが懸念されると話しました。

桜井大子さん(女性と天皇制研究会)は、天皇制の問題から24条について話しました。8月8日の「ビデオメッセージ」で天皇が自らを「伝統の継承者」と規定したことに触れ、「この伝統とは、連綿と続いてきたと言われる『天皇』そのものであり、天皇一家、天皇制に残る家父長制的家制度も守り、継承していくということ」と指摘し、これを批判しました。そして、自民党草案の前文と24条は、戦前の天皇を頂点とする家族国家論を思い起こさせると指摘し、天皇の「ビデオメッセージ」と合わせて読むと、彼らは、世襲制と家制度に貫かれた伝統と、神道文化の継承者である天皇を「いただく国家」を目指していると指摘しました。そして、そもそも憲法が、家父長制的家制度を体現する天皇を国の「統合の象徴」であると規定していること、そして、このような天皇制を受容する社会であること自体を問うていく必要があると話しました。

藤田裕喜さん(NPO法人レインボー・アクション 代表理事・事務局長)は、セクシュアル・マイノリティと政治について、自民党の動向を中心に話しました。自民党は、今年5月に出した「性的指向・性自認の多様なあり方を受容する社会をめざすための基本的な考え方」で、「カミングアウトを必要としない社会を目指す」とし、同性婚を認めず、同姓パートナーシップ制度にも慎重な態度を示しています。藤田さんは、自民党の稲田朋美が今年5月の東京レインボープライドに参加するなど急接近していることを紹介し、またそのことに期待を寄せる人々がいる状況の中で、同性婚の実現を願う当事者が24条改憲の動きに連動する、利用される危険性があることを指摘しました。セクシュアル・マイノリティを取り巻く課題は無数にあり、「同性婚がゴールでもスタートでもない」と強調し、「自民党をはじめとする勢力に利用されないようにしてほしい」と、共闘を訴えました。

登壇してくださったみなさんのお話を受けて木村さんは「色んな方の話を聞けてとてもよかった。自民党草案なんて相手にしている場合ではないということをむしろ確信する気持ちです。自民党草案の悪口に留まらない形で、家族や女性、性的少数者のために何が必要か、という方向で議論が盛り上がっていけば良いのではないか」とコメントしました。北原さんは、「やっぱり、女性や子どもにとって家庭が差別を再生産する場所であることをみなさんのお話しから改めて実感しました。差別を語ることが難しくなっている状況の中ですが、痛みを感じられる社会を作っていきたいと思います。私も、ねちっこくいこう!と決意できただけでも本当によかったです」と話しました。

最後に、三浦まりさん(上智大学)があいさつし、24条改悪が案件として上がってくる可能性は高い、政治的なダイナミズムの中で改憲が進んでいくのではないかと懸念している、と話しました。そして、24条について「『個人の尊厳』という言葉が出てくるのは、この24条です。私たちが本当に大切にしている『個人の尊厳』は、親密な関係性の中で守られてこそ。そのことが謳われている24条は本当に意義深いと考えています。これを変えさせないと同時に、24条を生かしながら、私たちの幸せのために使っていく運動にしていくことが必要なのではと思います」と提案。さまざまな意見が飛び交いながらも、笑いとユーモアにあふれたこの日の会を振り返り、「ポジティブに進めていきましょう」と締めくくり、集会を終えました。

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